【d!】蛇とイチゴ【zm】 (ページ36)

今日:32 hit、昨日:61 hit、合計:30,330 hit

ブレーキページ36

.

夕飯を食べて、自室に戻ろうとしたとき、目の前にぬっと壁が現れたから、ぶつかりそうになった。ぶつかる直前に急ブレーキをかけ、なんとか踏みとどまったからぶつかりはしなかったものの。

「お嬢。」

壁が喋った、と顔を上げると、そこにいたのは、ずっと探していたというのに、一向に見つかる気配のなかったゾムだった。話しかけるのに躊躇したのか、眉尻が下がっていて、珍しく困っているみたいな表情だった。

「プレゼントって何？」

遠慮がちに、困った表情のままそう言った。サプライズのはずなのに、どうして知っているのだろう。そう思ったけれど、今はゾムが会ってくれたことの方が大事だった。コネシマがバラしてしまったのかもしれない、その可能性は感じていたが、むしろそれで良かったのだ。

「あの、いつも、お世話になってるので⋯⋯。」

いつゾムに会っても渡せるように、持ち歩いていたプレゼントを渡す。ゾムが受け取ったのを見て、Aは頭を下げた。

「この間は、びっくりして、怖がってしまってごめんなさい。あと、助けてくれて、ありがとう。」

ゾムは、目の前にAがいるのにも関わらず、ラッピングされたプレゼントを丁寧に開ける。そこには、小さい女の子が使いそうなイチゴ柄のファンシーなハンカチが包まれていた。見た目の怖い男が持つには、少し、いや、大分かわいすぎる。
買ったときこそ、赤くて丸いものが嫌いだというゾムへのちょっとした嫌がらせのために買ったものだったが、今ではそんな気持ちはどこかへ飛んでいってしまっていた。嫌だっただろうか、と顔を覗き込む。

「イチゴは、かわええから好きやで。」

ゾムは数秒の間固まって、そう言葉を紡ぐと照れたように笑っていた。いつも意地悪な笑みを浮かべているのに、純粋に嬉しそうな顔で笑うから、Aは鳩が豆鉄砲を食らったみたいな顔をする。それから、釣られてAも笑った。
気付けば雨は止んでいて、雲の隙間から射す光は、明るく外を照らしていた。窓に残った雨粒が、光を受けて強く輝いている。

.